Equalization Using Voice and Music as The Souce

John Meyer Meyer Sound Laboratories



 まえおき!!

  1984 October に New York AESで、発表された論文です。
まだ、SIM I が、出来るか?出来ないかの時期です。
非常に古い論文ですが、敢えてこの時期にだしたのは、改めてSIMの構想を考えて頂きたいと、言う素朴な期待からです。

 皆さんの一つのヒントになれば幸いです。(SIM オペレータにとっても!!)




《要約》

 ここでは、コンサート会場におけるサウンドシステムの振幅および位相特性を正確に測定する Source-independent テクニックを述べる。
 この測定は、テスト信号に音楽あるいは音声を使って、ライブの演奏中、又はイベントの進行中に行なうことができる。測定システムの有効性を確認するために、インパルス・レスポンスと音楽の信号を使って得られる結果との関係を示した。多くのルームレゾテンス(室の共振)を扱うにあたり、レベルと位相の両方を同時に補正するイコライザーが開発された。現場においてこのイコライザーがコンサートシステムに示す効果の程がここに紹介されている。


《1.概論》

 演奏会場におけるSRシステムの振幅レスポンスを測定し、イコライズすることは広く実施されている。システムレスポンスに調整を加えれば、明瞭度はほとんどの場合、着実に向上する。〔1〕
 スピーカーシステムがたとえ自由空間で完全にフラットになっていても、どんな会場又はスピーカーシステムであれ、振幅レスポンスに変則性は現われる。この変則性はサウンドの質を低下させる原因となる。振幅レスポンスの変則性には、多くの潜在的な原因が考えられる。そして、会場を測定することの重大な役目はイコライザーションを左右するものが何なのかを明らかにすることである。
 しかし、現行の測定法がかかえる大きな欠点の一つは、聴衆が会場に入っているとき生じる音響空間の変化に対処できないところである。〔2.3.4.5.6.〕

 この論文では、携帯用 dual-channel FFTアナライザー、及び新規に開発されたパラメトリックイコライザーを使って、演奏会場におけるSRシステムの振幅と位相特性を測定、調整するテクニックを述べる。これは、リインフォースされた音楽又は音声をテストシグナルに使う方法で、観客が入ったままシステムの測定や補正が可能になるものである。



《 II.Source-Dependent Measurement Techniques 》
(従来の音源に依存した測定法について)

 スピーカーとroomを測定するテクニックは数多く開発されて来ている。これらは、いずれも取り囲む空間と相互に影響しあっているシステムの、周波数特性に関するデータ収集に利用できるだろう。そのねらいは、音響空間で最終的にフラットな振幅特性を与えるよう、システムレスポンスを調整することである。

 様々な方法論に強要された制約の中で、それぞれのテクニックは(実施方法が正しければ)同じ振幅特性データを得ることができる。たいていは位相特性データも出すことができるが、建築音響の測定では、このタイプのデータの収集は、余り一般的ではない。

Dual-channel スペクトラムアナライザーを除く、最近、広範な利用がみられるこれらのテクニックは、すべて source-dependent として分類される。これらは、どれもスピーカー/ルーム系を、あらかじめ特性のわかっているテスト信号により駆動するという基礎の上に立っている。そのような理由で、聴衆がいる場所で、こうした方法を使ってデータ収集のために遠慮しながら実施するのは、無理なことである。従って観客がもたらす音響上の影響に関しては、詳しい情報が十分にない。現行のやり方の広範囲な調査結果は、この紙面で伝えきれるものではない。しかし、特に一般的ないくつかのテクニックについて、賛否両論を、手短かに列挙してみよう。それぞれの詳細にわたる解説は、すでに論文として入手できる。



Swept Sinewave: {掃引正弦波法}

 一般に使われているテクニックの中では、はるかに簡単で最も安上がりな方法である。〔7.8〕しかし、外部からの雑音による妨害を受け易く、極めて時間がかかる。掃引した正弦波を使って位相データを集めることができるとは言え、その方法はいくぶん厄介である。
 掃引帯域フィルターを使用するところに、このテクニックの複雑さが表われている。このフィルターは、detector {検波器}の前にあってスイープした正弦波信号と同期をとって(トラッキングして)動くものである。例えば、ルーム測定における伝播遅延のように、純粋な遅延要素を含む測定システムの場合、トラッキングフィルターの使用により、多少のノイズから免れることができる。だが、それによってこの方法の分解能が増すわけではなく、測定時間(Capture time)に唯一依存する。しかし、もし十分な時間をかけて測定すれば、分解能は良好になるだろう。少なくとも原則として、位相は測定できる。

 1Hzの分解能に対して、この方法だと5時間半という測定時間が必要となる。なぜかと言うと、1Hzから20,000Hzの間、1Hzごとに integration が一秒ずつかかるからである。

Unknown Random Noise With Swept Filter:
{掃引フィルターを使った特性の知られていないランダムノイズによる方法}


 このテクニックでは、システム駆動信号に既知のパワースペクトラム密度(PSD)を持つピンクノイズを用いる。スイープされたフィルターは、一連の装置の detector stage より前におかれる。テスト信号の振幅変動を少なくするため、平均化をしなくてはならないので、これは正弦波掃引法よりずっと時間がかかる。掃引正弦波法と同様に、この方法は、経済的で手軽に実行できる。位相は得られない。それ以外にこのテクニックには目立った利点は無い。
〔12・13.14.15.16〕


Random Noise With Parallel Filters:
{パラレルフィルターを使ったランダムノイズによる方法}


 このテクニックは、ごく一般的に行なわれているもので、わりあい手軽で費用もかからない。しかし、分解能が非常に低い点を大目に見れば、前述の2方法よりスピーディーに実施できる。システム駆動信号としてランダムノイズを使うと、アベレージング(平均化)が是非必要となる。しかし、これは適切な分解能を得るためには、測定時間(検索時間)が比較的長く、又、集められたデータが多少あいまになるという結果につながる。未知のランダムノイズを使いながり、良好な伝達関数の測定値を得るのは難しい。装置の駆動要素と受信要素には、概して相関がない。(それは、駆動信号と応答信号との間に生じる大幅な伝播遅延のためである。)そのような理由で、capture interval (1つのデータを取る時間) の長さが倍増するごとに、振幅特性の標準偏差が、2の平方根の係数で減少することが推定できる。一番経済的で誰でも知っているような実施方法は、分解能が非常に低く、にせのデータを得る可能性がある。それは、フィルター特性の上下のスロープが、その前後の帯域にあるデータを阻止するためには、普通は勾配が足りないためである。それに、そのような機械は、外部のノイズに対して、何の免疫性も持っていない。位相データは得られない。

 1Hzの分解能では、20,000個のフィルターと数時間のアベレージングが±0.5dBの振幅分解能を得るために必要である。


Pseudorandom Noise With Hadamard Transfom (Digital Filtering):
{アダマール変換による擬似ランダムノイズによる方法}

 デジタル信号発生と、最長擬似ランダム・シーケンス処理を用いることにより、測定能力が高まる結果となる。また、テスト信号が、正確にわかっているために、非常に良好な振幅分解能が簡単に得られる。擬似ランダム・シーケンスは、もっぱら(+)と(-)で成り立っているので、スペクトルの計算はFFTを使わずに、アダマール変換でできる。これは、たし算、ひき算だけで、かけ算は全く要らないやり方である。タイム・アベレージングは、測定におけるノイズ耐性を劇的に高めるのに使うことができる。位相データは、そのようなアナライザーで簡単に収集できる。しかし、この方法を用いているアナライザーは、独自の同期化されたテスト音源が必要となる。測定の分解能は非常に高くなり得る。タイム・アベレージングを採用すると、演奏の信号レベルより20~30dB低くおさえられたテスト信号を使って音楽を再生している最中に、あまり目立たず測定を実施できる。私たちは、聴衆が入場してくると同時に、演奏会場にあるシステムの周波数特性を調べようと、この方法を使ってみた。テスト信号はやはり聞こえて来たが、不快な思いをさせる可能性のあるものだった。さらに、十分な平均値を累積して信頼できるデータを得るには、約20分間必要である。(1秒の間隔の音楽信号には、相関関係がないと仮定すると、1Hzの分解能パワー・スペクトルは演奏のレベルを(20・30)1og10)(20・60)~3dB) だけ下がる。〔17.18.19.20〕

 タイム・アベレージングが無いと、全可聴帯域にわたる1Hz分解能には1秒の測定間隔が必要となる。可能な方法としては、これがベストである。

Pseudorandom Noise Or Impulses Wit Single-Channel FFT Analysis:
{1チャンネルFFT分析を使った擬似ランダムノイズ、又はインパルス信号による方法}


 これは計算量が多い点を除けば、前述の各方法と同じである。だが、ここではFFTアナライザーを多目的アナライザーとして使うことができる。



《 III. Source-Independent Measurement 》

 私たちは、dual-channel FFTアナライザーの能力を利用したスピーカー及び室内の音圧振幅レベルと位相特性を測定する方法を開発した。装置の"伝達関数(トランスファー・ファンクション)" というモードでは、アナライザーの片方のチャンネルに駆動信号が入力され、測定基準としての役割を果たす。信号の変動は、計算上で除去されるので、信号はフラットでなくても良い。だが、補正される帯域には全周波数にわたり、ノイズよりも多いシグナル・エネルギーが必要である。
 全駆動信号と応答信号 (イコライザー出力やマイク出力を示す) の対応する部分がそれぞれのFFT"アナリシス{分析}・ウインドー{窓}"の範囲内に完全におさまっている限りは、アナライザーはテスト信号に同期する必要はない。

A.測定システム

 Fig.1に、測定システムの構成を示す。入力 (音楽や音声) は測定中のシステムとテスト装置の参照入力 (Reference) の両方に枝分かれして送られる。空間における伝播遅延を補正するために、高品質なディレイ・ラインが Referenceに直列に挿入される。このディレイ・ラインは、デジタルタイプでなくてはならない。計測用マイクからの増幅された信号は、アナライザーの測定チャンネル入力へと接続される。
(Fig.1) システム図解

 私たちがこの仕事に使ったDua1-channe1アナライザーは、Hewlet Packard 3582A という機種である。フーリエ変換による分析における周波数の線形性{周波数に対して対数的でないこと}のために、測定時のまちまちな周波数帯域に対して、さまざまなFFTサイズが用いられた。つまり、高域には短い測定時間、低域には長目の測定時間、というように、適切な分解能を保つためである。(メモリーの量が同じだとすれば、コンスタント{一定}Q変換を行なっている測定器のほうが、音響測定には、もっと役立つだろう。(21〕私たちが知る限りでは、そうした器械は研究用の道具として開発されているだけで、現時点では商品化されたものは手に入らないようである。)

B. Necessary conditions For Measurement {測定にあたっての必要条件}

 私たちが実施している測定法は、聴衆のざわめきや、その他周囲の干渉による妨害を受けやすい。雑音のあるデータは、可能な限りその都度、排除しなければならない。そうしないと (好ましくない妨害音が一時的なものと仮定して)、とてもあり得ない長さのRMS平均化時間が必要になるかも知れない。ノイズのあるデータ (Data segment)は、駆動信号と応答信号との間の"コヒーレンス" (可干渉性) が欠如していることで見つけられる。 参考1〔30〕


参考1. 

 コヒーレンス関数は、二乗したクロスバワースペクトル密度(PSD)の振幅を、入力と出力のPSDの積で割ったものとして定義することができる。このようにして、コヒーレンス関数は、それぞれの周波数における駆動と応答のあいだの相関の尺度を示す。
もし、システムが、最短のウィンドー長の端数より、もっと大きいディレイを示したら、データはもはや無くなって、測定は無効になるかも知れない。システム内のどんな非直線性でも、別の周波数で、システムがエネルギーを生じる (歪な発生して) 原因となるので、それもやはりコヒーレンスに影響を及ぼすだろう。このような理由から、スピーカーシステムを、まずフリースペース{自由空間}で測定しておくことが大切である。スピーカーシステムは、特長を把握され、そのタイムレスポンスと指向性が十分コントロールされていて、歪みは非常に低いものでなくてはならない。

 測定用マイクとプリアンプにも、同じような制約が当てはまる。いずれも、研究室で用いられるような高品質の機器で、その伝達特性が分かっているものが良い。それに、どちらも測定を妨害するような多量のノイズを出したり、歪を発生するものであってはならない。システムで、唯一の不明な点と言えば、測定の対象物一 つまり、スピーカーシステムとroom {室内、音場} の相互関,係だけでなければならない。



C. Measurement Procedures {測定手順}

 データを集める準備段階での第一歩は、テスト信号として使われる音源が何であるかを明らかにすることである。コンサートのPAの場合、私たちが普通選んできたのは、メインPAシステムヘ送られるミキシング・コンソールの出力信号である。信号系におけるこのポイントは、目指すサウンドを生み出そうと、創造力豊かなスタッフが工夫をこらして使うプロセッシングのすべてにつながっている。つまり、私たちは信号系のこの部分で、そのサウンドを再生する装置が欲しいのである。その場所とは、PAシステムのアコーステイカルなカラーリング効果、又はまわりを囲まれたリスニングスペースをいうという状況とは無関係に大部分のリスニング・ポジションを指している。

 システム・レスポンスを補正するのに使うパラメトリック・イコライザーはこの所に挿入する。そして、イコライザーの直前でリファレンス信号が取られる。サンプリング・マイクは、どこでもよい場所に置くことができるが、コンサートの場合、我々は、普通、ミキシングの位置にこのサンプルの場所を選ぶ。

 上記のように機材を接続した場合、レファレンスチャンネルのオフセットディレイ時間は、スピーカシステムからサンプルマイクまでの伝搬時間に等しくとられる。これを行なうには、スピーカーとマイクの間隔の実測距離から計算をして、およそのディレイをセットするのが最も効果的な方法である(音の伝達速度は1000分の1秒に約1.1フィート-0.340m-である。)。さらに、ディレイのセッティングは・システムの測定された位相特性の表示をフラットにするため、システムの測定をずっと続けながら、トリミングをすることが必要である。(位相特性に示される曲線は、駆動信号と応答信号の間の相対的なタイム・ディレイに対応する。)この調整を行なうのには、聴衆が入場して来る前が一番良いタイミングで、テスト信号として擬似ランダムノイズ、又は反復インパルスを使う。音楽だと調整時間が長くかかってしまう。

 スペースの測定とイコライゼーションを開始するためには、客席の半分以上(演奏時には満席になると仮定して)がふさがっているのを条件とする。聴衆が入場して来る間に流すカセットテープ(CD)の音楽が、テスト信号の役割を果たす。それには、種々のスペクトル内容を持った音楽を選ばなくてはならない。テスト信号は、(測定に要する時間の間ずっと)変換が最も正確であるために、その測定周波数レンジのすべての周波数をエキサイトしなくてはならない。ドラムは、広い帯域にわたる高いエネルギー成分を持っているので、特に望ましい。

 アナライザーは、"RMS" 平均法を使いながら、"伝達関数" モードのdual-channel 動作ヘセットする。 (3528Aでは、ディスプレイのスイッチを切るとアベレージング{平均化}は、より迅速に進む。HPの最大平均回数である200アベレージに要する時間は、1分以上、2分以内である。) HP3582Aは、リアルタイムでは作動しないので、高いサンプリングレートにおいては損失するデータがある。そのようなわけで、高い信頼性を得るためにテストサイクルを反復することが必要である。(Fig.1参照)

 コヒーレンステータは、同時に集められる。悪いコヒーレンス値、すなわち0.2以下の場合の、リファレンスチャンネルと測定チャンネルの間で得られた、振幅あるいは、位相データは、信用することはできない。(コヒーレンスは、各周波数でOから1の間で定義されている。) その様なデータは、システムにどんなイコライズ操作を加える時も、事前に除去されなければならない。コンサート・ホールでは、コヒーレンスの低いデータは、普通、聴衆の雑音や会場に生じるいろいろな雑音で汚されている。私たちの測定法は、可聴帯域にわたって低~高コヒーレンスがあるが、普通、その値がおよそ60%となっている。コヒーレンスの低いデータは度外視して、イコライゼーションをおこなう前に振幅特性を、手作業で滑らかにする。(Fig.2参照) 将来はこの操作を自動化したいと思っている。

(Fig.2) コヒーレンスによるカーブの平滑化

 振幅特性データに影響を及ぼすもうひとつの要因は、音場での反射による変動である。遅延し、反射した波は、システムからのサウンドに干渉して振幅特性にリップルを生じる原因となる。〔22〕これらのリップルは、簡単なパラメトリック・イコライゼーションには反応を示さない。(Fig.3参照) 私たちは、スペクトル構造を除去するのに、例に示したようなカーブを手作業で平滑にするのだが、これは現在あるイコライゼーションの力では及ぱないところである。実際この平滑化は、単なる概念上のものなのである。しかし、この平滑化が必要となるのは、周波数特性測定から望ましいイコライザーを自動的に計算する時である。〔24〕

(Fig.3) Dispersion {分散}の確認

 平滑化された振幅特性データから、ピークとディップが確認できる。そして、測定データから見つかったそれらに対し、パラメトリックステージ(イコライザーを示す)の中心周波数・振幅およびQを相補的にセットする (ピークとディップをなくすように)。パラメトリックステージ(イコライザー)を回路につなぐとシステムは再テストされ、必要なだけイコライザーをトリミング{微調整}する。

 演奏が行なわれている間、ずっと測定は行なうことができ、どんな音響上の変化にも対応できるよう、イコライザーをトリミングする。



《 IV. 音楽を音源に使って集められたデータの有効性 》

 テスト信号として音楽を使って実施された測定の有効性を確かめるために、私たちは,自分たちの研究所で,スピーカーの周波数特性測定を行った。音楽を使って測定したレスポンスと、システムのインパルス・レスポンスを、比較しながらおこなった。Fig.4にこれらの実験で使用した試験装置を示す。前に述べたように接続された、Hewlett Packard 3582A dual-channel FFTアナライザーは、測定器の役割を果たした。テストカーブのコピーをプリントするのに、3582Aで駆動されるX-Yプロッターを使った。Hewlett Packard 3561A single-channel FFTアナライザーは、すべてにわたる測定の確認をバックアップした。測定用マイクには、Bruel and Kjaer 2分の1インチ、ラボラトリー・マイクを使った。Fig.5は、マイク、スピーカー(Meyer Sound 833 Studio Reference Monitor) の配置を示している。テストに使った音楽は、ロックミュージックで、レコード演奏から選んだものである。

(Fig.4) 機材の写真
(Fig.5) 833 micの写真
(Fig.6) カーブ {曲線}

 Fig.6は、音楽測定 (平均値は60となった) と、インパルス測定の関係が、振幅領域・位相領域のどちらでも、二つの間に良好な相関関係が得られた事を示している。テスト信号に音楽を使うと、予想通りコヒーレンスは低く、最良の信頼限界値を得るには平均化時間がもっとかかることがわかる。しかし、コントロールされた条件のもとでは、コヒーレンスはかなり高く、0.9から0.95の範囲にわたっている。

(Fig.7) B スクエア カーブ (たぶん測定したCLUBの名)

 このテクニックの有効性をさらにテストするため、ライブ・ハウスで実験が行なわれた。スピーカー・システムは Meyer Sound 社製のハウスPAで、使った装置は同じであった。Fig.7から、得られた振幅特性データには、良好な相関関係があることがわかる。これらの実験結果から、音楽をテスト信号に使い、Duaal-channel FFTアナライザー一を利用した伝達関数測定法は、インパルス・レスポンス測定から集められたものと同じデータとなる、という結論に達した。


《 V. Measurement and Equalization of a Loudspeaker/Room System 》
{スピーカ/ルームシステム の測定と補正}

 コンサートホールにおいて、スピーカーシステムの伝達関数を正確にイコライズするため、私たちはパラメトリック・イコライザーを開発した。Fig.8は、我々の実験室でスピーカーシステムをイコライズするために、このユニットを使った時の様子を示している。こうしたデータを集める装置は、前記のFig.4に示されている。

 Fig.8(a)に示されている曲線の場合、Fig.9に示したように、スピーカーは、3面を吸音性グラスファイバーで、残りの1面を軽量の石膏ボードの壁でバッフルが作られている。こうした状況下では、300Hz前後の帯域で、ピーク及び隣接したディップが、システムにあらわれる。振幅の変動に関係した、乱れがシステムの位相特性曲線に示されている。曲線の高域にある周波数特性のリップルに注意してほしい。これは壁面からはね返る複数の反射{音)による拡散現象なのである。それに対応するリップルが位相曲線に見られる。そのような変則性はイコライゼーションでは直らず、イコライゼーション実施時にはプロットから除去するか、又は無視されなければならない。Fig.8 (C) が示しているのは、システムのイコライズされた特性である。Fig.8 (b) は、イコライザーの伝達特性を示している。システム・レスポンスを補正するには、パラメトリックイコライゼーションが2段必要であった。位相領域の特性が、いかに改善されたかに注目いただきたい。

Fig.8 (a) (b) (C) 曲線
Fig.9 スピーカー、グラスファイバー、室内のスケッチ (図がない?)

 Fig.10にはスピーカーとマイクに、違う配置をした、より複雑な例が示されている。Fig.10 (a)には、システムの補正されていないレスポンスであり、位相領域に対応して、いくつかの幅広いピークとディップが見られる。拡散リップルは、ここでも高域に見られる。Fig.10 (C)は、システムのイコライズされたレスポンスを示していて、Fig.10 (b)で得たイコライザーの伝達関数を使っている。位相曲線に1ヶ所障害が残っていることに注意してほしい。振幅特性は,補正されたので,この特別な位相の非直線性はオールパス ディレイ テクニックを使って除去すると良いだろう。〔23〕

Fig.10 (a) (b) (C) 曲線

《 VI. フィールド テスト 》 {現場テスト)

 音楽をテスト信号として使うdual-channel FFT 分析法に関連してパラメトリック イコライザーを採用することにより、聴衆が入場中の時点で一応、平坦周波数特性にするため、コンサートシステムをイコライズしたり、音楽演奏中にシステムレスポンスを微調整することが可能になった。

 Fig.11は、コンサートのPAシステムの振幅特性を示している。データは、ここに紹介したテクニックを使って演奏中に得たもので、その測定位置はスピーカーからおよそ100フィート(30m)離れたミキサーの所である。Fig.11に示されているのは、私たちが、パラメトリックイコライザーを使って補正したシステムのレスポンスである。イコライズする前、このシステムは、ほとんど同じような低域特性を示していた。その特性が断然良くなった点に注目していただきたい。

Fig.11 曲線

 私たちは、いろいろなコンサートで同様の成果を上げて来た。時には、"残響がありすぎる" とか、"共鳴が起きる" ことで悪評高い会場もあった。その場、その場で主観的な印象を集め、記録しておいたが、補正の効果ははっきりと聴き取れた。サウンドの"明瞭さ" と "自然さ" が増し、ちょうどコントロールされた状況で、音楽の録音を聴くのに良く似た音の体験をする結果となった。広々として残響の多い構造で、非常に不備、欠陥のある会場を扱ったケースで、そこで働くスタッフが、[長い間" 手のほどこせるものではない" と思いこんでいた" ありありとした残響" が消えてしまった。} と驚きをこめて語ったほどである。


《 ・. まとめ 》

{以上のように}私たちは、コンサート会場におけるスピーカーシステムの伝達関数が dua1-channel FFT 分析法を採り入れ、音楽をテスト信号として使えば解決されるという事を紹介してきた。結果として出て来たデータを分析すると、適切なネットワークを使って、真の相補な伝達関数 (システムの伝達関数と逆関数) を作ることができ、従って、その場の "共振効果" が最小限度におさえられるのである。私たちが、deconvolve することができる共鳴は、主として最小位相現象だ、という意味を指す。 (私たちは、これを経験に基づく観察によって推理してきた。) 非最小位相共振がある場所では、振幅領域特性は最小位相ネットワークを使って、まず最初にイコライズされなくてはならない。次にオールパステクニックを使って残りのディレイを補うのである。しかし、そのような付加的補正が、されるかされないのいずれにせよ、適切なネットワークが使われた場合、システムの位相特性が低下するどころか、むしろ向上するのである。こうしたコンディションのもとで、最良の性能を発揮するシステムにさせるのが目的なら、音場補正は、聴衆がいるときに行なうのが最良であることは明かである。高分解能分析手法は、現在もっとも広く普及している3分の1オクターブ分析法に比べ、はるかに望ましいことがここで一層明らかになった。


《 謝辞 》

 この論文を書くにあたり、Julius O. Smith博士、Elizabeth A. Cohen博士、スタンフォード大学、音楽・音響コンピューターリサーチセンターの Phillip Gossett 各氏から頂戴した助言に感謝いたします。また、HSLI の Bob McCarthy には技術面で、Ralf Jones には原稿の上で、Grateful Dead と Rush には使用システムのイコライゼーションで、それぞれご協力いただいた事に感謝いたします。


Appendix A

 室内の伝達関数のデコンボルーシヨン (Deconvolution)

x(n)を、サンプルタイム n=0,1,2,... に於ける源信号の振幅とする。

(例えば、x(n) は音楽や音声)

室内の1点で信号を受けた場合その式は次のように表せる:

[1] y(n)=x(n)*h(n)

ここで、 h(n)=空間のインパルス応答

X(n) を源信号 x(n) のZ変換

H(n) をh(n)のZ変換とする。

すると、 [2] Y(z)=X(z)・H(z) になる。

G(z)=1/H(z) とあらわすと、G(z)は逆伝達関数となる。 H(z)が、最小位相なら
G(z) は安定である。 (H(z) の全ての zero は Izl<1 の時おこる) G(z) が安定なら、 g(n)のインパルスが存在し、次式を得る。

[3] g(n)*h(n)=δ (n)

ここで、δ (n)=1 ...n=0 のとき
δ (n)=0 ...n≠0のとき

フィルター G(z) が信号系に挿入されると、室の影響は、排除される。

[4] x(n)*g(n)*h(n)=x(n)*(g(n)*h(n))

=X(n)*δ (n)

=x(n)


ここに述べられている相補フィルタリング・システムは、ルーム伝達関数の deconvolution を行なう。それにより、オリジナル信号が得られる。これを実践するのが困難な理由は、次の通りである。

 1. この場合、最小位相部分は deconvo1ve され、残りのエラーは H(z) の" 最大位相 " 部分により決められたオールパスフィルターである。過剰なディレイを加えると、Hの最大位相部分は、正確な deconvolution と純粋なディレイを任意に与えるため、イコライズが可能となる。

2. H(z)の次数は、手ごろな値段の機材を道具として使える次数よりもずっと長い。

 例えば、仮に10 フイート×10 フイート×10 フイートという、堅い壁の架空の部屋では、向かい合った壁と壁の間を共振("定在波") が 100Hzごとに起きる。(音の速さは千分の1秒で、およそ1.1フイート。) こうして、可聴帯域 (20-20KHz) に 3 x 20,000/100=600 という "減衰されない" レゾナンスが存在する。

それぞれのレゾナンスは、フィルターの次数に2を加える。これにより、1,200になる。 40サンプリング・レートを仮定すると、各壁同志の伝播は、10フイート x 40 samPles/msec x 1 msec/ft のシグナルディレイで = 400 samples となる。
 3つのディレイ方向として、前と同様1,200 が得られる。しかし、これは、こく単純化した分析法である。室内は、およそそれぞれの壁面のサンプリング期間に対応して立方体に分割されなくてはならない。
  〔 (1フイート/ms) / (40秒/ms) = 0.3インチ/サンプル
40KHzのサンプリングでは、C=1フイート/ms〕
そして、オーダーを見出すために計算が必要となる。10 ×10 x 10 という架空の室内で、オーダーは 400 の3乗 = 64,000,000 となる。かけ算・足し算に従い 100 nsと仮定すれば、そのようなフィルターはアウトプット サンプルにつき 12.8秒以上かかる。 (オーダー増加に従って two multiply-adds {2回の掛け算・足し算} と計算すると) 100フィートx l00フィート x 100フィートという大空間では、この成果は10の3乗上昇し、12,800秒 (分単位に直せば) 312分。 (時間に換算して) 3時間半となる。
リアルタイムで、広い会場を十分に deconvolve するとなると、明らかに常識を越えた費用がかかる。何百万個というパラレル信号プロセッサーが必要となるだろ。そのような事はせず、ルームレスポンスの抜粋された望ましくないピークとディップだけをイコライズすれば良い。

3. H(z)は、リスニングポジションにより変化する。

 H(z)は、リスニングポジション次第である。そしてそれを deconvolve すると、部屋のただ1ヶ所だけのリスニングポジション補正できるだけである。だが、周波数特性のいくつかの特長は、観察地点への依存度が低いことである。例えば、低い周波数の定在波のノードは、多くの部分のリスニングポジションで聞くことができる。 (定在波のノード近くに座っている聞き手は、このレゾナンスに気付かない。もし、それがイコライズされていれば、彼らそのような周波数で弱い低減を聴くことになるだろう。)

**もっと大きく見たい方は、画面をクリックしてください。**




 如何でしたか?

 難しい部分があったかと思いますが、分からない部分に関しては、いろんな文献を調べて、再認識をしてください。

 最後まで読んでいただき、有難うございました。

 また、音響に関して分かりにくい点、普段疑問に思っていることがありましたら、私が答えられる範囲で対応したいと考えています。
 今後ともよろしくお願い致します。


Equalization Using Voice and Music as The Souce

John Meyer Meyer Sound Laboratories


**質問、感想等が有りましたら、ast@ast-osk.comまでお願いいたします。**


Back


Copyright(c) 1998-2001 AST Inc. All Rights Reserved.