スピ−カ−・システムにおける仮想点音源と位相制御の追求 NO.4
ジョン・メイヤ−氏が語る
”メイヤ−・サウンド・フィロソフィ−”
訳 ロナルド・ハドリー
CP−10にみる位相補正機能
プロサウンド 【CP−10】についても話していただけませんか。
J.メイヤー 【CP−10】というのはとても面白い製品です。ある【グレイトフル・デット】のコンサートで、150Hzあたりから余分のエネルギーが出てるという苦情がありました。それには【グレイトフル・デット】が【MSL−3】を70台ほど使い始めた頃でした。
私たちがそれくらいの台数で実験したことがなく、その150Hzのエネルギーをイコライザーで修正できなかったので、彼らはスピーカに原因があるという説を作りました。それは、私がスタンフォード大学で、”SIM”の研究論文を書いていた頃のことです。
とにかく、彼らのステージへ行って、彼らが説明しようとしていたものが何であるかを慎重に測定してみました。すると、彼らの言っていた通り、ちょうど150Hzあたりに大きなピークができていました。彼らはほとんど耳だけで、それを予測していたのです。しかし、それはスピーカから出ているのではなく、1台のイコライザーから出てきていたのでした。
SRシステムを会場の環境に合わせてイコライジングしようとして、その弊害が出てしまったのです。ですから、いくら150Hzでイコライジングしても問題を解決することはできなかったのです。
そのイコライザーは、マーケットで非常にポピュラーな、いわゆる”ツインT”と呼ばれるものでした。その効果は、周波数帯域において相互に影響し合うため、グラフィック・イコライザーの隣りあった2〜3のポイントを6dB以上カットすると他の帯域にまで影響を与えて、グラフィックの表示と実際の特性とが一致しなくなるのです。
そこで、私たちはもっと正確に反応するフィルターを作ろうと思い、この点について非常に細かく研究し始めました。そして【CP−10】のプロトタイプが完成したのです。それはとてもシンメトリカルでよく制御の取れたフィルターで、位相を補正できる点に特徴があります。
つまり、ピークを作ると、それの対して、位相特性を反転させたディップを加えることができるのです。そのため、それぞれの素子間の影響が現れません。多くの”ツインT”イコライザーの設計に関する問題点は、過剰に位相変化が起きてしまうことです。
だから、それを使えばある周波数をカットすることが出来ても、位相問題が起きてしまいます。この位相特性の乱れは、遅延特性の乱れとして現れ、私たちは、それを聴感的にはっきりと知覚することが出来るのです。
【グレイトフル・デッド】のコンサートでは、3チャンネルをシリーズ接続したものを使いました。その結果、ミキシング・ポジションでは、音質的な変化を伴わずに±3dBという周波数特性を得ることが出来ました。そのうえ、110dBというダイナミックレンジが実現したのです。
また、【CP−10】の場合、実際に反射音による影響を最低の状態に抑えることもできます。反射音は周波数に対する位相変化を作り出します。【CP−10】はそれらの位相変化を補正することが出来ます。つまり、近くの物体によって発生した反射音との位相を揃えることで、共振を最低限に抑える能力があるのです。
このように、【CP−10】は、単にイコライザーとして問題を解決するためだけの道具ではなくて、私たちも想像できなかったような、高い利用価値のあるシステムなのです。
【CP−10】はスタジオモニターの補正用としてもよく利用されています。スピーカとその環境の問題について少しお話した方がいいようですね。それが一番重要な課題かもしれません。
一般の人々が【833】のようなスピーカーをスタジオで聞く場合、スピーカーと部屋とは、関係がないかのようにスピーカーから出ている音を聴いています。スピーカーに関して言えば、部屋と音とは非常に密接な関係があるのです。スピーカーと部屋が無関係だと思って音を聴いてはいけません。
スピーカーは部屋によって再生周波数特性が変化します。つまりこれは絶対的なリアルタイムの現象なのです。私たちは、スピーカーと部屋とが一体となった結果の音を聴いているわけです。それはスピーカーの基本的な特徴を変えてしまうほど大きな影響を与えます。
【CP−10】を、注意して使えば、部屋の角とか壁の影響をカットすることができるのです。【CP−10】を使って、スティービー・ワンダーのスタジオの【833】を彼の望む通りにチューニングしたことがありますが、これには実際2年ほどかかってしまいました。
音を非常にフラットな状態にすると、まるでヘッドフォンのような音になってしまうのでリスナーの立場から考えると、部屋の影響をほんの少し残した方がよいようです。
だから部屋の状態によって出てくる効果を20dBも残さないとしても数dBは残さなくてはなりません。
さらに、【CP−10】と【SIM】を利用して彼のモバイル・トラック内の音をスタジオと同じような状態のするのは簡単でした。確か、半日もかからなかったと思います。普通は、同じような効果を得るには、新たに壁やスピーカーのダイヤフラムやウーファーを替えたりで、非常に複雑で時間がかかる作業になります。モバイル・トラックの音をスタジオの音に合わせたところ、スティービーは音を聴いてみて数分間で同じだと分かって喜んでくれて、”今すぐここで仕事ができるよ”と言ってくれました。
でも【833】は、リニアー・システムだからこそ、リニアー・フィルターの【CP−10】に対応するわけで、もし、リニアー・システムでなく、音量レベルによって周波数特性が変化してしまうようなスピーカーであったなら、各音量レベルごとに【CP−10】を使用しなければならないでしょう(笑)。
”リニアーリティー”とは、私たちが提唱したアイデアではなく、現在のプロオーディオ分野がその方向に進歩する状態にあると言えます。CDの場合もデジタルであってもリニアー・メディアに変わりはないのです。つまりリニアーとは、ユーザーが望むサウンドに対して忠実に反応するということです。それが私たちが使っている”リニアー”という意味です。
リニアー・メディアでは、ヴァイオリンでも、ロックンロールでも忠実にストアされます。つまりリニアー・システムにストアする以前に、音を調整したり、変更したりするわけです。私たちはそういう意味で”リニアー”という言葉を使っています。
だからこのようなことをトータルで考えれば、【833】も複雑なオーディオ回路の一部にしか過ぎないのです。これはスタジオの場合でも、コンサートSRでも非常に大切なことです。
でも一般の人々は完全なスピーカーを買って、そのまま部屋に置けば完全な音が出てくると思いがちです。そういう人は、スピーカーがテレビのように他の物と無関係ではないのだということが分かっていないので、完全な音が出てこないと失望してしまうのです。
しかし音というのは環境に属するものなのです。この概念は、将来のプロオーディオのおける発展の次のステップとして、非常に重要なことなのです。音とその環境との関係を細かく分析して、コントロールすることが、これからさらに注目されるようになります。
このインタヴューの他の部分をとばしても、今のところははっきり読者に伝えてください、とても大切なことですから (笑)。
音というものが改めて複雑なものだと再認識させられました。まだまだ私自身も勉強不足ですが、多くの人に理解して頂ければ幸いです。
今回が、このシリーズの最終回になります。次回はまだ何も考えていません。
何時になるか分りませんが、期待してください。
飽きずに読んでいただいて有り難うございました。
**文章が、意味不明な部分が有りましたら申し訳有りません**
上記の資料が、古い為、現在では、常識の部分がありますが、再認識をして頂ければ幸いです。
また、上記の資料は、プロサウンドの記事を抜粋させていただきました。
貴重な文献に対して感謝いたします。有り難うございます。
**質問、感想等が有りましたら、ast@ast-osk.comまでお願いいたします。**
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