Electronic and Acoustical Crossovers について


**前説**

 今回は、Electronic Crossover とAcoustical Crossoverについて書きます。
この違いについて、今まで口答で話をしてきたのですが、なかなか理解をしていただけ無かったので、改めて文書で説明をしておきます。

 何故、Hi とLoのAMPのレベルを変えるといけないのか?
 HiとLoのAMPのレベルを変えることによって何がどうなるのか?

 以上の2点を今回の課題として説明をしていきます。


 まず、マルチ - ドライバーシステム(2WayなどのSystem)でのAcoustical Crossoveポイントは、各々のドライバー(ここでは、HiとLo)が合成されることにより、均一な振幅特性レベルを持っている周波数でなければならないと定義される。
 また、よく設計されたシステムでは、このポイントは、同じくその位相特性とも一致する。


 いろいろな文献には、このCrossoveについての考え方やこの方法の利点について記述しているものが多数あると思います。
 これらについては、いろんな文献を参考にしてください。ここでは敢えて記述しません。
 また、比較的最近の傾向は、デジタルでクロスの周波数及び減衰レベルをコントロール出来るタイプのものが多く見られます。
 これは、非常に険しいスロープ(クロス部分において)を作ることができる能力があるために大いに利用されています。
しかしながら、Electronic Crossoverの論議だけが主な主眼点として、考えられ、音響のSystem自身の構成との関わりについては、あまり深く考えていないので、結果として音響特性が本当の意味で満足出来るものであるかは、疑問が残ります。
 例えば、非常に険しいフィルターを作ってCrossoverした場合、Crossover付近で、大きな位相の遅れを故意に作ってしまう原因に成ってしまう事にもなりかねません。
 Electronic Crossoverだけを考えてしまうと、かえってHiとLoのクロス部分が急激に減衰又は、増幅され、何のためのCrossover処理なのかが分らなくなります。これでは、全く意味のないことです。
 Acoustical Crossoverが、システムで必ずしもElectronic Crossoverと比べて同じではないのです。このことは、非常に重要なので頭の中にしっかりとインプットして置いてください。
 実際、既成のデジタル機器を使い、Electronic CrossoverCrossover周波数を使用する時は注意が必要です。
 その理由は、後半で説明いたします。



 図1は、Meyer社のMSL-2を使用するためのCEU S-1の特性です。Hiエンドの部分とLoエンドの部分を個別に表示しています。
 Electronic Crossoverが1300 Hz. である事を確認しておいてください。
Hi アウトプットの位相特性は、Crossover周波数付近から段階的に低い周波数に向かって、遅れていくのが伺えると思います。
これは位相特性の下方への(低い周波数へ)勾配によって示される。



 Fig2は、S-1 CEU (Control Electronics Unit) と一緒にドライブされたときの MSL-2A スピーカーシステムの音響特性です。
この図は、Hi と Lo チャンネルの音響特性を個々に測定し、同時に表示しています。
 Fig2の上の図は、振幅特性を示していて、Acoustical Crossoverが900Hzであるのが確認できます。
 Fig2の下の図は、位相特性を示しています。
 ここで注目していただきたいのは、先ほどのFig1との違いです。特に位相特性が著しく、Fig 1で示された純粋のElectronic特性とは違うことに気が付かれたと思います。
 最も重要なことは、 Fig2の位相特性において、Hi と Lo チャンネルの各々の位相特性がAcoustical Crossover付近で、一点に集まっていることがお分かりいただけるでしょうか?
 Crossover rangeにおいて、HiとLoの位相特性が相対的な位相勾配にあるのが確認できたと思います。これにより、Lo ドライバーと Hi ドライバーは、スムーズに繋がるのです。(位相的にも)

 Fig3が、Hi と Loを同時に鳴らしたときの MSL - 2A スピーカーシステムの音響特性です。
 Fig3より、振幅と位相がとてもスムーズに繋がっているのが、理解できると思います。
 そして、コヒレントに関しても全く問題ありません。(Acoustical Crossover付近)

 これらの3つの要因(振幅特性、位相特性、コヒレント)により、一つのSPとして(実際は2Way SP)駆動しているのが理解できると思います。




**総論**

 最初に定義した、課題
 何故、Hi とLoのAMPのレベルを変えるといけないのか?
 HiとLoのAMPのレベルを変えることによって何がどうなるのか?
                        について書きます。

 Electronic CrossoverAcoustical Crossoverの違いは、分りましたでしょうか?
 実際のCEU(チャンネルディバイダー)のOUTの特性とそのCEUのOUTを通して鳴らしたSPを測定した特性では、クロスオーバー周波数が何故違うのでしょうか?
ここで唯一の違いは、SP Systemです。
 まず考えられるのは、Hi SPとLo SP自身の特性、また、Hi SPとLo SPのボックスに取り付ける位置関係または、ボックス形状。
 これらの違いにより、いくらCEUでクロスオーバー周波数(Electronic Crossover)を設定しても実際にSPを通じて鳴らした場合、CEUで求めているElectronic Crossoverとは同じにならないのです。
 カタログスペックではよく、HiとLoのクロス周波数は1.3kHzですと書かれています。これは、Electronic Crossoverのことで、決してAcoustical Crossover周波数のことではありません。
 この違いを理解してください。

 Fig3のMSL-2の特性は、見事なものです。特に位相に関しては完璧と行っても過言ではありません。

 ところで一般的なSPは、どうでしょうか? 位相特性においては、大抵の場合は、Hiに比べてLoが、遅くなっています。けれど、周波数特性はフラットに近いのです。(このことについては、他のSPスペック表などを参考にしてください。)
 周波数特性と位相特性は、必ず一致するとは断言できません。それは、SPを製作するメーカーのビジョンによるところが大きいからです。
 あるメーカーでは、周波数特性をフラットにするためにHiとLoの位相を反転しているところもあります。(これは、SPの取り付け位置及びSPボックス形状によるところが大きいです。)
 よくMeyerのSPを使用されているところは、お分かりでしょうが。B-2Aと言うCEUがあります。これは、Hi Boxと組み合わせて、Subウーハーを鳴らす為のものです。このB-2Aの中にBass Extenderと言う部分があります。これは、周波数特性を変えずにSubLoの量感を増やすことを目的としています。では実際にはどのような構造になっているのでしょうか?簡単です。Hi Boxに対して、Subウーハーの時間を変えているだけなのです。
 つまり、Hi Boxに対して、Subウーハーの時間を遅らせることにより、いかにもLoが出ている如くに聞こえてくるのです。
 人間の耳は、Hi Midの音に関しては、非常に敏感です。しかし、低い周波数に関しては、Hiと比べると鈍感です。
 例えば、Hi と Lo(特にSub Lo)が同じ時間で、あるところから、聴いている人間の耳に到達したとします。(つまり、HiからLoまでの位相が合っている時です。)これと比べて、HiよりLoの方が遅く、到達したときと比較をした場合、人間がこれらの違いをどのように感じるでしょうか?
 後者の方が、Loが多く聞こえ、心地よくさえも感じることがあります。(大抵の場合)
 では、位相を合わせることは人間にとって良くないことなのでしょうか?

 話が飛びますが、昔、オーディオ機器にサブソニックと言うSW(スイッチ)がありました。(今でもあるかな?)これは、音量が低いとき、Hiばかり聞こえ、Loがよく聞こえないので、このSWをONにする事により、Loが気持ちよく聞こえてきます。(私もよくこのSWは使用していました。)
 これは何故なのでしょうか?
 位相がHiからLoにかけて、合っていないと音量により、HiとLoのバランスが崩れるからです。つまり、位相が合っていれば、音量が変わってもHiとLoのバランスは変わらないのです。
 さてここで、SP Systemとして考えた場合、どちらの方が正しいでしょうか?(強制ではありません。)
 皆さんで考えてみてください。

 最初の課題から大きく逸れました。ここで戻します。

 何故、Hi とLoのAMPのレベルを変えるといけないのか?

 Fig2を見てください。HiとLoのレベルは、同じです。(マッチングしています。)
 ここで、LoのAMPレベルを+6dB上げます。
 さてどうなるでしょうか? 実際にFig2をプリントアウトして、Loの特性を上部に+6dB上った状態の特性を書き込んでみてください。

 HiとLoのAMPのレベルを変えることによって何がどうなるのか?

 書いてみましたか? 面倒な方は、頭の中で想像してください。
 そうです。Acoustical Crossover周波数が、変化し、Fig2の900Hzより、上の周波数でクロスする事になります。
 これにより、Fig3のような特性を見た場合、クロス周波数付近でディップ(又はピーク)が生じます。つまり、スムーズに繋がらないのです。
 その理由は位相特性にあります。+6dB UPしたときの周波数に値する位相はFig2から見てどうなっているでしょうか? Hiの位相とLoの位相が合っていませんよね。つまり、LoのAMPを+6dB上げることにより、位相干渉が生じたのです。
 これは、非常に厄介なことになります。
 
 例えが適切ではありませんが、
 ある会場のある客席において、SPをマウントして鳴らした場合、SPから直接聞こえる音と壁にあたって聞こえる音がありますよね。この場合、直接音より、壁にあたった反射音のレベルが多いとどうなるでしょうか?
 決して、良い音とは思えませんよね。(位相干渉により、フラットな特性が得られない。また、場所によって音の聞こえ方が変化する。)

 例えが良く無く、想像出来ないかもしれませんが、、、申し訳ありません。

 今回の課題である2点について、理解をしていただけたでしょうか?
 理解していただける事を信じます。(少し弱気です。)



 今回は、1回の完結編として書きました。私の文書力不足で理解をしていただいたかは、私自身、非常に不安が残ります。
 疑問、質問等がありましたら、是非一方ください。その都度、分かりにくい点を訂正させていただきます。

 今回のElectronic and Acoustical Crossoversは、非常に重要なことです。特に昨今、このMeuer Systemなどのプロセッサータイプのものは、周波数特性及び位相特性をコントロールされているので、扱いは簡単になりましたが、その反面、上記のことを理解していないと、全く違うSystemとして使用することになってしまします。
 また、今回のことを理解をして使用すれば、意外な効果を出せるかもしれません。
 私自身、古い人間なので、(長く音響をしているという意味です。) 今回のことを理解したときは、逆にチャンネルディバイダーを扱う時に非常に参考になりました。皆さんも利用してください。

 長らく、お付き合いしていただいて有難うございました。


参考資料 Meyer Sound Design Reference for Sound Reinforcement(MEYER Sound Inc.)


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