**前説**
今更とお思いでしょうが、改めて認識をと思い、古い文献ですが掲示しました。
何かの参考になればと思います。
”SIM(Source Independent Measurement)”システムについて
米〈メイヤー・サウンド〉社々長のジョン・メイヤー氏は、音場解析と位相の問題を長く研究しており、その研究の中で、いくつかのアイデアが生まれました。それを〈グレイトフル・デッド〉のエンジニアに話したところ、彼らも非常に興味を持ったそうですが、〈メイヤー〉がそれをシステム・アップするまで待てないということで、彼ら自信でTEF測定システムを作り出しました。
完成度の高い測定システムを望んでいたジョン・メイヤー氏は、ボブ・マッカーシー氏に設計を依頼し、その完成したものが、この〈SIM〉システムです。
これはもうすでに、スティーヴィー・ワンダーのモバイルやスタジオ、〈トンプソンツインズ〉、ミュージカル〈レ・ミゼラブル〉、ロンドンとカナダのホールには常設システムとして導入されています。注目されている点は、オペラ歌手のルシアーノ・バヴァラッティもこのシステムを使っているということです。(編集部)
《SIM》システムの大きな特徴
従来のオーソドックスな測定システムは、ピンクノイズなどで1/3オクターブ分割による音響分析が使用されていました。これ以外にもサイン波スイーブや、さらに進んだTEF(Time Energy Frequency)測定などによる方法がありますが、いずれも特定の測定用信号を必要としています。
しかし、〈SIM〉システムの場合、このような特定の信号だけでなく、どのような信号、たとえばピンクノイズはもちろんのこと、音楽ソースや肉声などの様々な音源を使用できることに、大きな違いがあります。
つまり、〈SIM〉システムは、もっとも洗練された音場分析・補正システムであると言えます。ピンクノイズのような測定音源を使用しないでよいと言うことは、リハーサルの段階だけではなく、会場に聴衆がいる状態においても、システムのチューニングが行えるということになります。コンサートが始まる直前まで、聴衆にはBGMになるようなCDを流しながら、システムのチューニングができるわけです。
この方法は、リハーサルのときのサウンド・バランスを本番のときに再現することができますし、また会場が変わっても、同じサウンド・バランスを再現できるということも意味しているのです。
さらに、従来の1/3オクターブス・スペクトラム・アナライザーとの大きな違いは、その分析精度です。1/3オクターブ・アナライザーの場合、周波数帯域を30ポイントに分けて測定しますが、〈SIM〉では600ものポイントを選定でき、きわめて細かい測定が可能となっています。
それに加えて、従来の測定方法が、会場内の一ヶ所で測定していたのに対し、〈SIM〉では、様々な場所での特性を測定し、それぞれの特性の応じて補正を行うことができることです。つまり、ハウス・コンソール、2階席、ステージ・サイドなどの場所における再生特性を個々に補正することができます。
「SIM」システムの基本的な機能
「SIM」の基本的なシステムは、図1の通りです。コンピュータは、ディレイ、FFT(高速フーリエ変換)アナライザー、イコライザー・スイッチャーをすべてコントロールし、会場内各所に設置されたマイクが収音した周波数特性をそれぞれストアします。
例えば、「大阪城ホール」や「武道館」の会場内の各席における周波数特性が、コンピューターを通してディスクにストアされるわけです。
会場内に設置された各マイクは、マイク・スッチャーに全て接続されており、コンピューターを操作して、いずれかのマイクを選ぶと、そのマイクが収音した周波数特性は、FFTアナライザーに表示されます。
各スピーカー・システム(フライングSP、左右のスタックSPなど)の、それぞれの信号経路の前段に、パラメトリック・イコライザー「メイヤーCP-10」が組み込まれ、パワーアンプへ、そしてスピーカーへと接続されています。
「SIM」の基本的な測定には、ABのデュアル・チャンネルを使いますが、これが「SIM」ならではの、ピンクノイズのような測定音源ばかりではない、様々な信号を音源として利用することを可能としているわけです。
例えば、自分の声を使って、システムの測定/補正をするとします。コンソールからの2系統の出力信号のうち1系統は、チャンネルAからFFTアナライザーへと入力され、もう1つの系統は、スピーカーから再生された声を収音したマイクからの信号で、チャンネルBからFFTアナライザーへと入力されます(図2)。
FFTアナライザーの内部では、これらの信号の積算処理が行われ、2つの信号の相違(ホールの影響による音響特性の変化)が表示されます。
つまり、それは、コンソールからの出力信号と、聴衆が実際にホール内で聴いている信号(サウンド)の違いを示しているわけです。そして、この情報はコンピューターにストアされます。
次に、イコライザー・スイッチャーを操作して、パラメトリック・イコライザーを調整して、FFTが表示しているホールの影響を受けたピーク・ディップがある特性カーブとは対称になるようにします。つまり、ピークを下げて、ディップを上げるように(?)イコラーザーで調整するわけです。
そうすることで、「SIM」の測定結果は、フラットな特性を持つホールの音響状態を示します。これが「SIM」システムの基本的な原理です。
「SIM」システムに内蔵されたディレイは、コンソールからの直接出力のチャンネルAと、スピーカーからのマイク入力のチャンネルBとの時間補正(Bの信号はスピーカーから空気伝播してマイクに収音されているので遅れる)のために使います。
したがって、ホール内に設置された各マイクには、それに対応した各スピーカー・システムとの距離が異なりますので、それに見合った遅延時間がセットされます。コンピューターのメモリーには、以上のことが記憶されていますので、例えば、マイク3を選ぶと、自動的に遅延時間がマイク3に対応するように調整されます。
それから、周波数特性調整用に使用している「メイヤーCP-10」パラメトリック・イコライザーは、次のような特徴を備えています(図3)。従来の1/3オクターブ・イコライザーでは、「SIM」システムのような正確な補正はできません。サウンド・システム全帯域にわたってピーク・ディップを生じる可能性を持っていますが、1/3オクターブ・イコライザーでは、特定(約30)の周波数ポイントにしか対応できません。
そのポイントが400Hzと500Hzにあって、ピークが450Hzに生じると、ピークをフラットにしたとしても、その前後のシステムの周波数特性は、かなり歪んだものとなっているからです。また、この「CP-10」は、0.1〜1.1オクターブの範囲で、振幅と位相の補正を行うことができます。
[SIM]システムのオペレ−ションについて
「SIM」オペレ−タ−は、ホ−ル内のSRシステムの特性を、本来のシステムの特性(自由空間における)に戻すことが、その仕事となります。ハウス・エンジニアがミキシングで作り出すサウンドと、SRスピ−カ−を通してホ−ル内で再生されるサウンドの違いを無くさなくては成りません。
こうすることで、ハウス・エンジニアは、ますますア−ティスティックなサウンド作りに集中することができるようになるわけです。
そのようなクリエイティブな仕事に専念するためにも、使用するスピ−カ−・システムは、次のような条件を満たすことが重要なポイントになってきます。
まず、均一な再生指向特性を実現(スタッキングすることで)できることです。さらには、低歪み(2%以下)であり、位相補正がなされていなければ成りません。また平坦な周波数特性(自由空間で)でなければ成りません。
このような条件を満たしてさえいれば「SIM」システムを使った測定/補正を正確に行なうことが出来るわけです。
**1987 prosund「no,8」vol,20より抜粋**
SIMというものを改めて理解をしていただければ、幸いです。
質問等々がありましたら何時でもメールください。
飽きずに読んでいただいて有り難うございました。
上記の資料が、古い為、現在では、常識の部分がありますが、再認識をして頂ければ幸いです。
また、上記の資料は、プロサウンドの記事を抜粋させていただきました。
貴重な文献に対して感謝いたします。有り難うございます。
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