L-Acoustics V-DOSC System No.1
0.0 イントロダクション
インストールされたV−DOSCフロントオブハウスシステム(F.O.H)を初めて見たサウンドエンジニアは好奇心をそそられるか、あるいは当惑することさえあるかもしれません。 従来のシステムとは異なり、エレメントは2つか4つの特徴のある“J”型の細い柱状に縦にアレー組みされています。 サブウーハーの集合と、システムを補足するのに時々使用されるフロント/センターフィルだけが馴染みのある姿をしています。
それ以上に驚かされるのが、F.O.H.アレーを組むのに使われるエンクロージャーのサイズと数です。
各エンクロージャーのパフォーマンスとパワーハンドリングについての質問が出るかもしれません。 これを既存のものと比較して、キロワットあたり何円といういつもの計算に置き換えることでシステムの評価を試みるわけです。
エンジニアはこうしたいつもの質問に対して答えを得ることができずに落胆し、合意を得たオペレーターが協力的でないと思い、結局SPLに関する期待をしぼませてしまうかもしれません。
しかし簡単な評価のためにミキシングボードのフェーダーを上げてみます。 その瞬間にエンジニアは、数個の質問では済まないと気づくのです……サウンドの音量は、彼がこのサイズのシステムから想像するよりもずっと大きいものです。 更にそのサウンドは、彼がこれまで大型のサウンド強化システムで耳にした中でも最もクリーンでコヒーレントなサウンドです。 重要なポイントである、カバレッジにムラが無いこと、そして大型PAシステムに通常見られるロービング、くし形フィルタリング、異なるスプリアスといった問題点がないことを発見することでしょう。
0.01 波面彫刻技術の原理
サウンドシステムの事実上のトレンドは、コンサート中にSPLそのものを増大させ、カバーするオーディエンスのサイズも増大させるという方向にあります。 その結果、当然ラウドスピーカーの数が増えることになります。 個々のラウドスピーカーのパワーを増やそうとすると運搬、取り扱い、インストレーション等が不可能なほどのサイズと重量になってしまうからです。
従って必要な音圧レベルを実現するために、数多くのラウドスピーカーをアレーやクラスターに組むことになります。 すると個々のラウドスピーカーから放射された音波はカップリングされず、コントロール不可能なひどい干渉が起きてしまいます。
その結果、カバレッジ、一貫性、指向性コントロール、明瞭度、全体的なクオリティが大きく損なわれてしまいます。
更に干渉を起こした音源が作りだす混乱した音場が音波エネルギーを食うため、同じ音圧を得るために単独のコヒーレントなソースが必要とするよりもずっと大きいパワーが必要になります。
ここで、水中に小石を投げて遊ぶ時のことを考えて下さい。
水の中に小石を一つ投げ込むと、石が水に入った所の周りに円状の波が広がってゆくのが見えます。
小石を一握り投げ込むと、無秩序な波ができてしまいます。
一握りの小石と同等のサイズと重量の大きな石を一つ投げ込めば、小石一つの場合と同じような、しかし振幅はもっと大きい円状の波を見ることができます。 結局、一握りの小石をすべて一つにまとめることができれば同じ結果が得られるのです……
これがV−DOSC開発の背後にある考え方です: 運搬や取り扱いのためにバラバラにもできる多数のスピーカーを使って単独の音源を構築することができれば、完全にコヒーレントで予測可能な波場を作るという我々の目的を達成することができます。 V−DOSCのR&Dプログラムが始まった当初の設計は、完璧なモジュラー方式で、調整可能な単独アコースティックソースでした。
1988年には“DOSC”と名づけられた初期システムが、プロジェクトが実現可能であることを証明しました。 この実験的コンセプトから、プロフェッサー・マルセル・アーバンとドクター・クリスチャン・ヘイルが理論的リサーチを行い、その成果は1992年3月にウィーンで開かれた第92回AESコンベンションで発表されました。(リプリント#3269)この理論は各音源をアレーに組む際の、波長、各音源の形状、その表面積、相対的距離を含めたアコースティックカップリングの条件を定めたものです。 逆に従来のアレーの実際の特徴から、アコースティックカップリングの周波数帯域を割り出すことができます。
簡単に言えばカップリングの条件は以下の様に要約できます
通常の段階に従って、平面状または曲線状の連続面にアレーした個々の音源の集合体は、以下の二つの条件の一つが満たされれば、その集合体と同じ寸法の単独の音源に等しい:
1) 周波数: ステップ(各音源のアコースティックセンター間の距離)が波長よりも小さい。
2) 形状: 各音源の作りだす波面は平面で、(全体で)少なくとも全表面積の80%を満たす。
V−DOSCはこれらの原則を初めて厳密に具現化したシステムです。 エンクロージャーをアレーに組んだ時にどの周波数帯域でもWST(波面彫刻技術)の基準を満たせるよう、独立したトランスデューサーが各エンクロージャーに備えられています:
高域の基準を満たすために、1.5インチフォーマットのコンプレッションドライバーが作りだす波面を形成する、DOSCと名づけられた特別のウェーブガイドが開発されました。
このウェーブガイドはヨーロッパの特許#0331 566およびアメリカの特許#5163 167で保護されています。
V−DOSCシステムは、個々の同一のエレメントから成る可変サイズのグローバルアセンブリーとして設計されました。 作られる波面の形状は、アセンブリーのサイズと形状によって決まります。 個々のエレメントは、横方向のカバレッジが90度という点を除いてはアコースティックな特色を述べることはできません。 その結果、V−DOSCアレー全体の横方向のカバレッジも90度となり、その他の特色はアレーのデザインによって異なります。 これが波面彫刻技術(WST)です。
これによってデザイナーは縦方向のカバレッジ、波面の形状、実現可能なSPL、エネルギーの地理的分布などが必要条件にぴったりマッチした“単独の”ラウドスピーカーを構築することができます。 アレーのサイズは一般的な単独のラウドスピーカーに比較すれば巨大なので、従来のシステムでは無理だった周波数帯域でも指向性のコントロールをすることができます。 さらに高域で一定の距離を超えると、システムは距離の2乗ではなく距離そのものに比例して強度の低下する波場を作り出します。 これによってHF減衰率は通常の逆二乗の法則よりも小さくなり、非常に長い距離での高域レスポンスが良くなります。 結果として空気吸収によるHF減衰が相殺され、他のシステムでは明瞭なサウンドも実現できないような遠距離でも、広い帯域幅と優れた音バランスを提供することができます。
V−DOSCシステムのカバレッジは非常に厳密に決まっており、コヒーレントな波場の中ではレベルも帯域も均質ですが、この波場の外ではSPLリジェクション(排除・拒否)はおよそ20dBです。 この音場の形態はアレーの屈曲によって決まり、実現可能なアコースティック圧はアレー内のエレメントの数によって決まります。
V−DOSCのエレメントにおけるトランスデューサーの配置は、波の伝播の平面、すなわち横方向のカバレッジ角度を二分する平面に関して対称です。 これを同一平面上の対称(Coplanar Symmetry)と呼びます。 HFトランスデューサーは中央に、MFトランスデューサーはHFトランスデューサーの両側に、そしてLFトランスデューサーは両端に置きます。(横向きに)各(球状の)ソースに対する同軸配置に等しく、しかし円柱状の範囲に置き換えられた同一平面上の対称は、音場でどの角度から聞いても均質なカバレッジを可能にします。 一般的に、これによってクロスオーバー周波数におけるオフアクシス(軸外)の音のキャンセルを避けることができます。
0.02 V−DOSCシステムエンジニア
V−DOSCは革新的な設計です。 他のシステムでは不可能なレベルに於いて、完全に予測可能な結果をもたらすことができます。 さらにセットアップも簡単で時間効率に優れています。
V-DOSCシステムを正しくセットアップするために必要な教育、訓練を受け、情報を備えたエンジニアを、V−DOSCシステムエンジニアと呼びます。 こうしたエンジニアはシステムをセットアップし、コントロールし、自分でミキシングをしない場合にはユーザーにアドバイスも与えなくてはなりません。 レンタルマーケットでV−DOSCシステムを提供しているV−DOSCネットワークソサエティも、システムと一緒にすべての設置現場へ同行する義務を負ったV−DOSCシステムエンジニアを通じて、セットアップとコントロールのサービスを提供しています。
V−DOSCシステムエンジニアが、ミキシング卓に関する知識を持ったサウンドエンジニアでもある場合には、このオペレーターがミキシングをする義務も負うことになるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。 ミキシングとV−DOSCのセットアップは、それぞれ完全に独立した仕事と見なされます。
これらのV−DOSCシステムエンジニアは技術レベルを判断基準としてHeil−Acoustics社および各国のインターナショナル・ネットワーク・コーディネーターによって選ばれ、期待されるサービスを正確に提供できるよう、訓練を受けます。
V−DOSCシステムエンジニアのリストは、パートナーの協会を通じて入手可能です。
今回は、イントロ部分を紹介いたしました。まだ、今一つ理解できない点が有ると思いますが、この連載を通じて少しでも理解していただれればと思います。
一番早いのは、実際にこのV-DOSCを聞いていただくのが一番だと思います。
私も実際の音を聞きました。感想としましては、とてもパワフルでクリアーな音でした。また、エリア内での音のスムーズな点にも驚かされました。とても素行の良いSYSTEMだと思います。
場所は大阪城ホールでしたが、一番驚かされたのは、縦使いのステージで客席最後部に電光掲示板があり、いつもはこの掲示板が反射して邪魔をするのですが、この時は、意外に少なかった点です。この現象からも優れたSYSTEMだと言えるのではないでしょうか?
何度も言うようですが一度聞いてみるのが早いと思います。興味のある方は連絡を頂ければ機会を作りたいと考えています。連絡を下さい。
次回を楽しみに!!
上記の貴重な資料は、ベステックオーディオ(株)からの提供です。
より多くの人達がこのSYSTEMを理解して頂ければ幸いです。
貴重な文献に対して感謝いたします。有り難うございます。
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こちらへast@ast-osk.comまでお願いいたします。**
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